No.60『地域振興と観光産業のかかわりについて2013』正月号
【年末年始の旅行者3000万人】
JTBの推計によると、年末年始の国内旅行の平均費用は一人あたり3万800円との事。その人数は(帰省客も含めて)2937万1000人とあるので、しめて9046億2680万円が国内で動く勘定になる(きっと実家への手土産代も含まれているに違いない)。
一方、海外旅行の平均費用は一人あたり20万7000円になるとの事。その人数は65万7000人とあるので、1359億円の大半が海外へと流出する事になる。
だがこれは、あくまでもJTBグループ14社の販売状況と航空予約に1200人アンケートを基にしたものである。同業他社の取扱高は反映されてはいない。大手とされる旅行会社は他にも44(無免許のじゃらんを除く)あるので、これらを合わせると年末年始の海外旅行の実態はもっと大きくなる筈である。
毎年2月になると、JNTOが毎月公表している観光出入国数の1月〜12月までが出揃う。これを見ると年間の出入国格差が分かる(注 出入国管理事務所の数字は観光でないものも入ってしまう)。
震災と原発事故による汚染懸念を受けた2011年は、訪日外客621万8752人に対し出国邦人は1699万4200人で約2.7倍。
その前年、上海万博の年2010年は訪日外客861万1175人に対し出国邦人は1663万7224人で約1.9倍。
そして、新型インフル年の2009年は訪日外客678万9658人に対し出国邦人は1544万5684人で約2.3倍だ。
はたして2012年はどうだろうか。11月現在の時点で訪日外客は767万8900人、出国邦人は1706万2000人である。
つまりこの事は、一向に改善されない観光出入国の不均衡を貿易の問題として捉える視点が我が国には欠けていると云う事であり、『年末年始の旅行者3000万人』との見出しを掲げる新聞社の稚拙さは、現代日本の社会成熟の妨げにさえなりかねないという事である。
人口6074.2万人の先進国フランスへの年間外客数が年間7680万人ならば×20万7000円で15兆8976億円となる。
人口2885.9万人の後進国マレーシアへの外客数が2457.7万人ならば×20万7000円で5兆874億円となり、物価の差を勘案するとフランスと同額もしくはそれ以上の経済効果となる。
人口1億2000万人の日本は、せめて1億人の訪日外客で少なくとも年20.7兆円の外貨獲得を、との論調がそろそろ欲しいところである 。
【新経連VS経団連か?】
これまで表立った活動が見えてこなかったのだが、ネット選挙の解禁をと訴えた『新経連』は、『経団連』を脱会した楽天の三木谷氏が6/1に設立したものである。
その会員企業には三井物産、富士通、電通、味の素、TBS、近畿日本ツーリストの名前もあり、UFJ銀行も賛助会員である。それゆえに既存の産業界にただちに反旗を翻すものではないとされる。
だが今のところ各新聞社は、この経団連の対局に位置する新団体の主張に関しては慎重だ。公告もなければ記事もない。それどころか自らもネット媒体を抱えているにもかかわらずSNSの一部の主張を掲げ、ネット媒体そのものを憂慮する報道すらも散見する。はたしてツイッターによる煽動を真に受ける者と、主義主張も聞かずにただ縁故だからと票を投じる者の、どちらが反民主主義的だというのだろうか。
戦前戦中等は特にそうだったのだが今でも保守色の強い新聞は、それゆえにネット社会の旗手たる『新経連』が掲げる新産業創造と脱原発に警戒感を持つのも無理からぬ事である。
折しも12/13の日本テレビ系朝のニュース番組では、楽天の社員食堂が紹介されていた。この会社は2010年春に新たに旅行業に参入するやいなや一躍業界二位に躍り出て既存の旅行業者に衝撃を与え、ビジネスの国際化に伴い社内語をすべて英語とした事でも知られているが、その社屋の中にある500席のビュッフェにはカフェテリアまでもが別に有る。それが社員には無料で提供される。その意図は社員のコミュニケーション能力の向上だ。
有り体に申せばスポンサーの意志が反映される民放で、このような番組が選挙戦のタイミングで報じられるのは決して偶然ではない筈である。そこには革新勢力と既得勢力との攻防のみならず、今後顕在化してくるであろう世代間のせめぎ合いすらをも予見させる。
何故ならば産業革命以来、国の基幹産業というものは否応なく時代と共に変わるものだからである。
【では、国産旅客機産業は国の基幹産業足り得るか】
YS-11以来の日の丸旅客機リージョナルジェット(MRJ)。
12/14のNHKの報道では、スカイウエストからの受注数100機で3500億円との事。更に、要請があれば100機の追加注文も有りだそうだ。
しかし一社独占では、たとえ目標である1000機受注がかなったとしても僅か3兆5000億円にしかならない。
こうなると地域経済や雇用面への波及は限定的だ。少なくとも三重県への波及は殆ど無いだろう。
スケールの比較対象として、震災前H22の自動車産業界の売上高をみてみると以下の通りである。
トヨタ 18兆9509億円
日産 7兆5172億円
ホンダ四輪 6兆5548億円
マツダ 2兆1639億円
スズキ四輪 2兆1292億円
ダイハツ 1兆5747億円
三菱自工 1兆4456億円
富士重工 1兆2944億円
いすづ 1兆0809億円
日野自動車 1兆0234億円
UDトラック 2464億円
どうやらこれが我が国近年における、モノづくり産業の限界のようだ。ちなみに自動車産業界の合計となる43.98兆円は、一人あたり20.7万円✕2億1256万人のインバウンドで稼げる外貨高である。先進国、後進国問わず、人口の倍近い外客受け入れを行っている国や都市は珍しいものではないが、年間予算僅か108.5億円の観光庁にはそれも無理な注文だ。 警察予備隊、保安庁、防衛庁を経て5年前に省に格上げされた防衛省が更に国防軍になるとしても、国土交通省下にある観光庁の格上げは考えられないからである。
【地域の格上げ】
となると、やはり観光産業の基幹産業化は地域主導でなければならないようだ。国任せでは駄目、導線に沿った自治体間連携による自助努力しかないと云う事である。
では、その潜在力を最大限引き出すにはどうすればいいのだろうか。こと産業ともなると一過性のものではなく持続的なものが求められる。それだけに国際会議や博覧会、土日イベント、B級グルメは落第である。継続的な直接雇用に結びつかないからだ。
ここで最も効率のいい地域経済への波及を問われれば、私は商圏内への宿泊だと答える。日帰り客と比べると経済効果が10倍近くあるからだ。たとえば宿泊客の卓上に松阪牛が供出されるまでに、いったい何人の手を経るのかを考えてみて欲しい。そこには肥育業者からバイヤー、卸といった一次産業ラインのみならず、調理人や給仕人、予約係といった三次産業ラインや、地域電力、ガス、水道、交通、そしてファーマシー、クリーニング店、土産物店、博物館といった館外にも経済効果が及ぶからである。
この紀伊半島東部中央に位置する松阪市は、歴史街道のターミナルであり、バラ撒き政策ではなく選択集中を求める都市だ。ならば世界的にも名の知れた牛肉による高級イメージを富裕層の宿泊誘致拡大に大いに利用すべきであり、日帰りB級ものに手を染めるよりも、牛肉にも負けじ劣らぬ別の高級食材を立てて、京都のように各国際空港からの直接的なインバウンド導線が形成されるだけの『地域の格上げ』こそ全力を傾倒すべきである。
幸いこの街にはポピュリズムに迎合しない本物の地域文化コンテンツが多い。駅前には戦災を免れた寺が並び、国史跡となった松坂城址や国重文である御城番屋敷などのハードウェアは今もなお利用されている。また、日本人の本質を知りたい向きには、飽くなき探究心を今に伝える本居宣長の旧宅や記念館を訪れる事もできる。
これらのコンテンツはとても日本的であり、180度違う異文化圏の方々には自国にはない珍しいものばかりであるが、同時に古都には見られない等身大のジャパネスクだともいえる。なにしろここには、旅人と國の光とを隔てる立ち入り制限ロープなどはないからだ。
さて、観光産業の基幹産業化に必要な事として、見慣れた地域コンテンツを客観的に見直してみる事については今や異論もないと思うが、ではその目線をどの国に合わせるかについてはまだまだ軽んじられていると言える。つまり相性である。
振り返れば、もともと関西からの紀伊半島観光圏東端である三重は、台湾、香港と共に欧米圏富裕層と相性が良かった事を思い出す。しかしセントレア開港以来この事は、何故かほとんど忘れられてしまっている。が、今も変わらぬ奈良や和歌山への欧米人観光客の入り込みを見れば、今もそうである事は間違いない。
問題は関西経済圏との情報の隔絶にある。
ちょうど来年2014年は熊野古道世界遺産10周年である。ӏれは三重が紀伊半島文化圏にあると云う事を、世界へ向けて発信するのにまたとない機会である。
今年がいい年になるように、各人できる事から始めようではないか。
12/15付け東京新聞、中日新聞、夕刊三重掲載のオリジナル【新産業による外貨獲得】
離合集散、紆余曲折を経て、ぼちぼち各政党からの選挙公約が出揃ってきた。だが、どの政党も威勢ばかりはいいのだが、果たしてその財源はあるのかと首を傾げたくなるものばかりである。なにしろ国は東電の事故処理と補償でいっぱいいっぱいの上に、長らく日本経済の屋台骨をも支えてきた製造業も斜陽化し、雇用環境も依然として厳しいところにある。これでは何を実現するにしても、消費税率の更なる積み上げが必要なのではないかと思う。
だが、いま国民の多くが求めているのはさらなる我慢と始末ではない。明るい未来が展望できるだけのスケールの大きな新産業による外貨獲得政策なのだ。
たとえば外国人観光客の受け入れ順位だが、日本は先進国中最低で、後進国にも抜かれて30位、それも震災前の2010年にである。それだけ日本は遅れているのだ。が、日本の観光産業だけがかくも諸外国のように発展しなかったのかを語れる議員は皆無である。この産業が年40兆円超の外貨獲得ポテンシャルがあるにも関わらずだ。
一体全体、いつまで票田の利益誘導ばかりに囚われた政治を続けるつもりなのだろうか。84兆円とされる大企業の内部留保やお年寄りの箪笥預金も、元をただせば過去の稼ぎである。国政はその切り崩しではなく、稼ぐ事を訴えるべきである。(2012.1201)
【2011年全国基準(日本人)観光客入込統計から】
観光庁の全国基準による『2011年観光入込客数統計』が、2012年も年の瀬になって報じられた。しかも集計を終えたのは38都道府県だけである。震災と原発事故による被害が最も深刻だった福島県でさえ既に提出済みだというのに、まだ集計ができていない7府県(神奈川県、富山県、福井県、滋賀県、京都府、長崎県、熊本県)と、全国基準未導入の大阪府と福岡県は実に不可解である。
さて今回は、その38都道府県から東海三県と周辺県、北海道、千葉県、静岡県、沖縄県、島根県を比較対象としてみた。
三重県の廉売傾向が浮き彫りになるからである。
宿泊客の観光消費額÷その単価=観光入込客数
[沖縄県]
県内客 435億5300万円÷4万7117円= 92万4358.51人/一回
県外客3581億9700万円÷9万7767円=366万3782.26人/一回
計4017億5000万円 計458万8140.77人/一回
[北海道]
県内客1241億9200万円÷2万0389円=609万1127.57人/一回
県外客2399億9300万円÷7万6867円=312万2185.07人/一回
計3641億8500万円 計921万3312.64人/一回
[千葉県]
県内客 280億8300万円÷2万2006円=172万5867.85人/一回
県外客2450億8900万円÷3万7153円=659万6748.58人/一回
計2731億7200万円 計832万2616.43人/一回
[静岡県]
県内客 372億3500万円÷1万7572円=211万8996.13人/一回
県外客1724億7300万円÷2万1563円=799万8562.35人/一回
計2097億0800万円 計1011万7558.48人/一回
[福島県]
県内客 358億4100万円÷2万2689円=157万9664.15人/一回
県外客 555億7400万円÷2万9776円=186万6402.47人/一回
計914億1500万円 計344万6066.62人/一回
[三重県]
県内客 138億5200万円÷1万3970円= 99万1553.32人/一回
県外客 701億8100万円÷16446万円=426万7359.84人/一回
計840億3300万円 計525万8913.16人/一回
[岐阜県]
県内客 176億2900万円÷2万5516円= 69万0899.82人/一回
県外客 641億4800万円÷2万7264円=235万2846.24人/一回
計817億7700万円 計304万3746.06人/一回
[愛知県]
県内客 332億7000万円÷1万6221円=2051044.94万人/一回
県外客 468億0600万円÷2万3248円=201万3334.78人/一回
計800億7600万円 計406万4379.42人/一回
[和歌山]
県内客 113億4600万円÷1万9976円= 56万7981.58人/一回
県外客 581億5100万円÷2万5481円=228万2131.78人/一回
計694億9700万円 計285万0113.36人/一回
[奈良県]
県内客 31億0400万円÷1万3357円= 23万2410.75人/一回
県外客 293億4100万円÷2万6360円=111万3088.01人/一回
計324億4500万円 計134万5498.76人/一回
[島根県]
県内客 53億7500万円÷1万6640円= 32万3016.83人/一回
県外客 270億3100万円÷2万4961円=108万2929.37人/一回
計324億0600万円 計140万5946.2 人/一回
果たしてこれは、ターゲットとなる市場に問題があるのだろうか、それとも隣の館の価格ばかりが気になるからか。
たとえば県外客の単価だけでも2万1000円となれば 426万7360人/一回で896億1456万円となり、県内客138億5200万円と合わせると軽く1000億円台には乗った筈である。
今年は延べ11隻もの豪華客船が三重に寄港する予定だ。パッセンジャーとミスマッチにならないオプションも必要になるであろう。
安物ばかりでは、失礼ではないかと思う次第である。
No.60『地域振興と観光産業のかかわりについて2013』正月号補足
【内宮の入り込み数】
三重県は2002年度より、内宮+外宮の合算数字を伊勢神宮の入り込み数とし、県内観光地ベスト10の1位に据える事にした。中日新聞2003年7/7付記事によると『目玉観光地だから、数字にボリュームがあった方がいい』からだそうだ。
だが遠来客の場合、内宮だけの片参りはあってもその逆は殆どない。それゆえ伊勢神宮のマーケティングは、同じ人間のダブルカウントを避ける為にも内宮の数字を判断材料として重視すべきである。
そこで過去六年間の内宮の入り込み数を県発行の『観光実態調査報告書』から拾ってみた。これにより内宮の、つまり伊勢神宮の年間入り込み数が2010年以降、減少傾向にある事が分かる。
2007年(H19)526万3454人
2008年(H20)571万6128人
2009年(H21)601万4051人
2010年(H22)652万8390人
2011年(H23)564万2957人
2012年(H24)551万3569人
1/8付の報道によると、今年の三が日の内宮は三年ぶりに前年を上回る3.2%の増加(38万4525人)となったそうだ。外宮と合わせると前年比3万2000人増加の55万6522人だそうである。
しかし内宮の増加率は、11.7%増加の外宮とは連動してはいない。市内全体で10.3%のプラスとなった鳥羽市41旅館(12/30〜1/5で6万4268人)や、志摩市にある『志摩観』の前年比プラス16.5%(ベイスイートとクラッシックで1200人)とも整合性をみない。
つまり、内宮をパスして外宮だけで参拝を済ます人が非常に少ない事からみて、外宮の増加は正月休みを利用して来た『日帰り安近短客』と『帰省客』の立ち寄りが多かったものと思われる。
では、何故内宮は伸びなかったのか。内宮前にある伊勢の市営駐車場有料化を原因とする意見もある。が、パークアンドバスライドの期間中ではそれも説得力に欠く。
おそらくその原因は旅の目的の多様化に尽きる。この事はミキモトの前年比43.4%アップを筆頭に、海の博物館の22.8%、鳥羽水族館22.3%、島めぐり7.1%のそれぞれアップが裏付けてもいる。
この鳥羽市の増加は、カレンダーの並びのみならず、前年比57.9%プラスで3万998人を運んだ『近鉄』による関西マーケットに負うところも大きい。『JR東海』利用者は僅か2270人しかないので、その差は実に13.65倍もの開きとなっている。
こうなるともう、街道に沿う三重県中勢部も、宿泊に結びつく関西マーケットをもっと重視すべき事は明白である。
ただしその為には、先ず『元日から町が開いている』事と、それを『告知せしめる』事が前提条件でもあるのだが。
【年末年始の松阪市営駐車場】
12/31(月) 12:30 72台
三重ナンバー61台、奈良2台、大阪、名古屋、湘南、静岡、滋賀、豊橋、鈴鹿、鹿児島、豊田、各1台
1/ 1(火) 12:20 116台
三重ナンバー106台、鈴鹿3台、奈良2台、大阪、滋賀、北九州、香川、相模、各1台
1/ 2(水) 12:25 87台
三重ナンバー71台、名古屋3台、奈良2台、大阪2台、尾張小牧2台、岐阜2台、北九州、鈴鹿、なにわ、神戸、多摩、各1台
1/ 3(木) 12:20 96台
三重ナンバー77台、大阪3台、奈良3台、名古屋2台、相模、品川、北九州、神戸、岡山、松本、豊橋、富山、春日部、鈴鹿、岐阜、各1台
年末年始四日間、昼飯時の、市営駐車場における県外ナンバー比率は、三重315:県外56で僅か17.7%である。満車日は一日もなし。
1/3にはヘッドライトの切り忘れも1台あったが、駐車場を共有している市民病院が休業の為にガードマンも不在。処置なしである。
【もてなし】
元旦に北海道の富良野市と札幌市から松阪市に来た二人の青年は、市内にある老舗割烹に宿をとった。正月休みを利用しての来松で、地元の著名人『松浦武四郎』の記念館を見たかったそうである。
だが松阪市内の文化施設はすべて休みである。彼らは、せめて生家だけでも覗いてから帰りたいとの事だった。
この日のNHKニュースによると、広島市では今年の元旦から『原爆資料館』と国の『追悼平和記念館』をガイドボランティアも配置して開館とし、帰省客や県外客にみてもらう取り組みを始めたそうだ。
親が生まれ育った故郷を、帰省に際して我が子に見せる事はたいへん有意義であるが、それにも増して、閉まっている施設や店が圧倒的に多い中にあっては、開いていること自体が旅行者にとって『もてなし』であるといえる。
きっと来館者の記憶には、正月の思い出としても長く残る事であろう。
ちなみに大晦日から開けていた鳥羽市の『海の博物館』も、910人が入館したと報じられている。
【観光立国を問う】
2003年。観光立国を目指した小泉政権によって招集された観光立国懇談会は五つの提言をまとめ、2008年に新設された観光庁に以下の数値目標を課した。
一つ、2010年までに訪日外客1000万人。
二つ、2011年までに国際会議開催件数の五割(252件以上)増し。
三つ、2010年までに国内旅行の年間宿泊数を一泊増の四泊へ。
四つ、日本人の海外旅行2000万人。
五つ、2010年までに国内に於ける観光消費額30兆円。
この提言から10年。かろうじて目標に近づいたのは国際会議だけときく。三重も今年の5月には日台観光サミットがある。が、昨年暮れの報道によると2011年の開催数は233にとどまり、存在感を高めた中国を前に、今やアジア主要国の中に占める開催割合は、2003年の約五割から二割へと逆に低下しているとの事である。
それにしてもこの提言、最初からどこかおかしい。
なぜ海外旅行の送り出しが2000万人で、訪日外客がその半分なのだろうか。萬年赤字のサービス収支は2003年当時も赤字だった筈である。ならばその数値目標は、とうぜん是正に向けたものでなければならない筈なのにだ。
つまりこの事は、はなっから観光当局が観光産業を国際貿易の一つとは考えておらず、国の商売、外貨獲得は稼ぎ頭である経産省に任せておけばいいと、国交省もその傘下の観光庁も、初めからその領分を侵すつもり等さらさら無かったという事である。
この意は二人の歴代長官の講演からも読み取れる。商売よりもソフト外交的側面といった大義名分があるという事は、地域経済、観光業界の売上よりも、人数さえ稼げれば面子と権威は保たれるというわけである。
そこで当局は『損して徳とれ』とばかり、地域行政、観光産業には『中・韓はこれからの有望市場ですよ』とそそのかし、相手国には工業製品を買ってくれる見返りとして、観光客を送ってくれたらその倍の日本人観光客を送りましょうと仄めかす。そして日本の消費者に対してはメディアを通じて円高メリットを喧伝し、財界にはJAL再建の投資回収をアナウンスしてきたのだろう。
その結果、多額の円の海外流出を許し、そればかりかライバル国を富国せしめ、地域経済を支える国内観光産業にはそれらとの競合を強いる事となってしまった。1/5付経済紙に掲載された47都道府県への観光アンケートによると、沖縄県の悩みの一つに『円高による海外との競合』と書かれているが、これはけっして沖縄県だけの問題ではないのだ。
公平な貿易を望むのならば物価差もかんがみ、訪日韓国人観光客が10人ならば日本人観光送客は5人、大陸からの訪日中国人観光客が100人ならば日本人観光送客は精々12人迄が妥当である。この点に於いて国益を損なった不勉強前政権がどう考えていたのかは分からない。しかし、時はめぐり日本を取り巻く情勢は変わった。新興国の台頭に、震災と原発事故を受けた日本経済は2003年よりも深刻だ。文化資源の活用も含め、今年は『観光立国』を根本的に問い直すべきである。
2013.0101
No.61『地域振興と観光産業のかかわりについて2013』2月号
【おもてなし論は必要か】
もちろんである。ただし日常的常識の範疇でいい。
客商売だからといって米つきバッタみたいにへりくだる必要は全くないし、取り立てて背伸びをする必要もない。お客さんを神格化している国は日本ぐらいである。
したがってインバウンドを迎えるにあたっても、最も必要なのは最低限の教養であって外国語の文法ではないと言える。昨年末、独立行政法人情報通信機構は、実証実験を終えたとしてVoicetraのアプリケーションを民間(FEAT)へとライセンス委譲すると発表したが、グーグル等、音声同時翻訳によるコミュニケーションの垣根は年々低くなりつつある。それ故に、これから肝心になってくるのは、機械には代行できない『知識』の蓄えの方へと移ってくるであろう。例えば伊勢神宮や本居宣長についての質問があった場合、『満足』できる回答を用意する事ができるかどうかが『おもてなし』になってくる。知らなければ音声入力する事もできないからだ。
つまり、『おもてなし』とはコミュニケーションであり、右手を左手の下に置いて、踵をつけたまま爪先を少し開いて深々とお辞儀をし、作り笑顔でサーを連発することではないのである。
その為には『人みがき』が必要になる。常に地域文化と国際社会との接点を日々のニュースから洗い出し、CGまみれでない東西新旧の映画や本にも接して、人心の機微も知らねばならない。
だが、形式主義に陥った日本は、受け入れ態勢づくりやおもてなし論ばかりが横行し過ぎている。だから、セミナー等でおっくうになった自治体は『うちはできないから外国人観光客は無理、或いは時期尚早』と消極姿勢に転じてしまう。
されど、基本的に『郷に入っては郷に従え』は万国共通である。看板も英語だけでいい。
最近とみに増えた日本人海外旅行者も、相手国に至れり尽くせりを期待して行くわけでない。実は一般的な外国人ビジターも同じなのである。
【指標】
1/17付の中日新聞文化欄に写真家南山氏のエッセイが載っているが、その本文の中で氏は、先般報じられた今年の伊勢神宮三が日参拝者数『55万人』の数字を引用している。
だが、この数字は内宮と外宮の合算数字(内宮38万+外宮17万)であり、近年、内宮だけの片参りはあっても外宮だけのそれが非常に少ない事からみて、内宮の参拝者数には外宮参拝者も重複しているとみて間違いないものである。
しかも、このうちの大多数は伊勢市と周辺の市民、三重県民、そして帰省客である事もやぶさかでない。この事は、神宮司庁が55万と6522人とした伊勢神宮三が日の参拝者数の数字が、前回平成22年の国勢調査の三重県人口185万4742人の3割である事からも察しがつく(誤差はぴったり100人ちょうど)。
昨年の『観光みえシンポジウム』の席で観光庁側は私の質問に対し、参拝者数を観光統計に加える事については異論が在るのを認めたが、こうやってあらためて見ると、とても地域の文化や経済の振興、雇用促進、観光投資などに反映できる指標ではないという事は皆様にもお分かりいただけると思う。
ちなみに近年の内宮偏重の傾向は、『第60回式年遷宮』があった翌々年1975年の『三重国体』の頃からみられるようになってきた。
その原因は、モータリゼーションの波に乗って同年開通した南勢バイパス(現在の国道23・42号線)のおかげで、伊勢志摩方面への流入が増えた反面、古くから外宮に直結していた旧23号線(現在の県道37号線)への経由量が減った事にある。
しかもこの傾向は、1993年の『第61回式年遷宮』の年に全線開通となった『伊勢自動車道』と、内宮前の『おかげ横丁』の開業によって更に顕著となり、翌年の『三重まつり博94』の開催と『志摩スペイン村』の開業を経て今にちに至っている。
なお、このような大きな動線変化は旧23号線にあった観光立寄り施設を閉館せしめ、『伊勢自動車道』全線開通後には、バイパスの『南豊』からもドライブイン機能を奪い去っている。
【城郭めぐりの真意】
下記は、1/5の午前中に書き初めとして配信致しました『城郭めぐり(通称 三城めぐり)』第2幕のたたき台です。津市観光協会からは、この日のうちに強い参画の意思表示がありました。
そこで私は1/11のうちに、県庁1階の観光国際局観光誘客課に御協力を要請した足で、そのまま津市政策秘書課へも赴き快諾を得、『城郭めぐり』先発である松阪市まちづくり交流部、伊賀上野城、鳥羽市観光協会の賛意も確かめた次第です。
さて今回、新たに山城、平城をコンテンツに加える事にしたのは、『城跡』という同一テーマで手っ取り早く『点から線、線から面』へとサイトシーイング・エリアを拡張できる事と、『城跡』を地域のランドマークに据える事によって、従来からある農水省系観光メニューお得意の、何処でも真似のできる軽食の類いとは違い、その地に在る別時代の『歴史文化』コンテンツへの『関心の普及』を図る『戦略』としても使えると考えたからです。
たとえば国史跡である斎宮跡にあったとされる『斎宮城』。残念ながらその存在は真贋含めて伝説的な部分も多く一般的にはあまり知られてはいません(それはそれでロマンがありますが)。竹神社の敷地内にも案内板と石碑があるだけです。しかしこの地は時代を更に7世紀後半にまで遡れば、斎王文化を今に伝えるサイトシーイング・エリアとなっています。ならば、『城跡』をきっかけにしてここを訪れた歴史ファンは、碑の写真をカメラ(或いはスマホや携帯)に収めた後、今度は別の時代の新たな被写体にも迫る事になります。
つまり城跡をランドマークにするという事は、その土地の『真打ち歴史文化コンテンツ』を紹介する『きっかけづくり』になり得るという事です。
もちろん『戦術』として、『斎宮歴史博物館』や『いつきのみや歴史体験館』へと足を運んでもらう為のハードウェア(看板)やソフトウェア(有償無償のガイドさん)の配置が必要になります。これがなければ素通りです。
この事は、『松坂城』目的で訪れた圏外ビジターが、時間さえ許せば城跡内に在る『本居宣長記念館』や『歴史民俗資料館』、『御城番屋敷』だけでなく、近隣に在る別時代の歴史文化施設へも足を運ぶ様を先例として挙げる事ができると思います。
なお松阪市においては、伊賀市の春の取り組みのように『時代装束(伊賀市の場合は忍者)を纏った人が日常風景の中に溶け込んでいる』といった『演出』まで行う事ができれば、京都における舞妓さん同様の、ソフトウェアによる地域の格上げ『戦術』になると思います。言うまでもなく『多くのレンズを引き寄せる』からです。
この、『レンズを引き寄せる』といった点においては、来年世界遺産登録10周年を迎える『熊野古道』の伊勢路側にある山城『紀伊長島城』(1384年築城の町史跡)も有望です。
ここは太平洋戦争当時、143メートルもの標高を生かして『軍事監視所』としても使われていたそうで、見るからに登山道線も急峻です。しかし福井さん達の本によりますと歩道は整備されているとありますので、安全策を講じた上で公開すれば『太平洋を望む眺望への登山コンテンツ』として、城跡マニア以外にも使えるのではないかと思います。
【O.H.M.S.S.城郭めぐり第2幕】2013.0105
[目的]
各地の城郭と城跡を地域のランドマーク・ポイントと位置づけ、城下に広がる町の歴史文化紹介で集客を促進。
[概要]
先発の伊賀上野城(国史跡)、鳥羽城跡(県史跡)、松坂城跡(国史跡)にとどまらず、歴史街道に沿って文化コンテンツと移動手段、アクセス経路をより広域的に紹介。圏内ウォーカーおよび海外も含む圏外サイトシーイングの集客をはかる。
[事業背景]
・今年の東紀伊半島来圏者のすべてが遷宮参拝だけではない。現代人の傾向に合わせた新たな『中・長期的な文化観光コンテンツ』開発が必要になる。
・ながらく歴史の片隅に埋もれたかにみえた各地の山城跡も、ガイダンス本の発刊(三重の山城ベスト50)やNHKの朝の紹介番組などで認知が広がり、今やマニアにとどまらず広く一般にも知られつつある。
・我が国唯一の発展途上産業であるのが文化観光による海外集客である。これをもって地域経済の再興と雇用促進をはかる。
[テーマ]
東紀伊半島 in 日本
[競合状況]
・今年は出雲大社の大遷宮(※本殿遷座祭)と重なるので、どうしても関西以西の商圏が分断される。
・名古屋城(国重文)もお城文化コンテンツと、城下町再現おかげ横丁モデルを準備中。
・国策としての会津ブーム
[独自性]
伊賀上野城、松坂城跡、鳥羽城跡に周辺導線にある山城を加え、三重と奈良とを結ぶ歴史街道で宇陀松山城跡(国史跡)、高取城跡(国史跡)、大和郡山城(県史跡)ともリンク可能である。
[優位性]
御遷宮により、東紀伊半島コンテンツのメディア注目度が上がる。
[将来展望]
西洋市場に向けたインバウンド向けコンテンツ化。日本人が地球の反対側の西洋騎士や魔法物語に魅かれるという事は、逆説的に欧米人に於いても同じ事がいえる筈。東紀伊半島文化圏もコンテンツの一つに戦国ものを加えることによって、ゴールデンルートに干渉できるぐらいの圏内引き込みをはかる。その為には、セントレアと関空との片道連携も必要になる。
[市場]
第一段階 日本西部導線(九州圏までの新幹線導線)
第二段階 欧米圏(戦国武将ものは、コリアンとチャイニーズには不向きです)
第三段階 関東圏(外人が来るようになれば、関東人は放っておいても来ます)
[広報]
圏外へのパブリシティ展開。メディア露出の活性化。
[課題]
・遷宮後数年間の急激な落ち込みにも耐えうるように持続成長させる必要があるが、その為には各市におけるお城祭りへの相互乗り入れが必要かもしれない。この場合、開催日時の調整で重複を避けるか、分遣隊を派遣することになる。
・各拠点における文化ガイドの方法論
※出雲大社の本殿遷座祭
1744年、1809年、1881年、1953年、2013年
[補足]
財団法人日本城郭協会が40周年目の記念事業としてH18に選定した『日本100名城』には、三重県から伊賀上野城と松坂城、奈良県からは高取城が選ばれているが、いまだにスタンプ台紙を持って来訪者が訪れる事からみて、根強いファン層がある事が分かる。しかし流石に7年目ともなると、記念スタンプを集める事だけが目的の圏外ビジターが目立つようになり、遠距離からの来訪であるにもかかわらず興味の対象が違うのか、或いは時間的な制約からか、市内導入には結びつかないようだ。
『木を見て森を見ず』にならない為にも、サイトシーイング・エリアに歴史文化のテーマ性を持たせる必要性がここからも分かる。
【貿易収支の赤字】
2012年の我が国の貿易収支は2年連続の赤字となり、前年度の2.7倍、6兆9000億円になるとの速報が出た。
これは第二次石油危機があった1980年の2兆6126億円を大きく上回る過去最大のもので、その理由としてはLNG輸入の増加が増えたのが響いたとしている。しかし、メイド・イン・ジャパンの国際競争力の低下には触れられてはいない。
一方お隣の韓国では14年振りにサービス収支も黒字になるという事で、そこには建設・運送に加えて旅行部門の改善が挙げられている。つまり出入国格差がなくなってきたという事であるが、これはこの国が訪韓外国人誘致を、輸出と同じ外貨獲得の為の国家事業としてきたからである。
ならば、工業製品輸出で稼いだお金を新たな投資に回す事しか知らない我が国も、外国人観光客によるサービス収支の改善は試みる価値があり(後進国相手では人数が嵩むばかりで効率が悪い)、いつまでも手をこまねいていれば円安誘導の中で次年度も赤字幅は膨らみ、財源不足は慢性的となって、国債増発や消費税増税にも歯止めが掛からなくなるのではないかと懸念する。
諸外国並に、自国の人口と同数の外国人観光客が我が国にもあれば、その売上げは年20兆円を軽く超える筈である。
そして毎年アジア周辺諸国には、その三倍もの観光客が来ている事も事実である 。
なお、1/26付中日新聞朝刊によると、2012年のインバウンドは837万人で歴代2位との事(JNTOによると正確には836万8100人である)。しかし、邦人の海外旅行者数が日本人口の10%を超える、1849万人(暫定値)もあった事は書いていない。
2013.0201
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O.H.M.S.S.
(大宇陀・東紀州・松阪圏・サイトシーイング・サポート)
代表 井村茂樹